NENOMETALIZED

Music, Movie, and Manga sometimes Make Me Moved in a Miraculous way.

名盤発掘シリーズ vol.1 ehi(Who the Bitch #WtB)『here in my song』 レビュー

1. 隠れた名盤

「隠れた名盤」というものが世間には多数埋もれている。

以下のこれまで約50年にわたる名盤ラインアップの一部を見てみよう。

1967 the Beatles

  『sgt. pepper's lonely hearts club band』

   The Velvet Underground

  『 Velvet Underground & Nico』etc...
1977 David Bowie 『Low』

    Television 『Marquee Moon』

    Sex Pistols 『Never Mind The Bollocks 』etc...
1987 New OrderSubstance

    U2 『Joshua Tree』etc...
1997 Radiohead 『OK computer』

   The Chemical Brothers『Dig Your Own Hole』

         Björk『Homogenic』 etc...
2007 RadioheadIn Rainbows

    M.I.A. 『 Kala』etc...

例えばビートルズにおける一連のアルバムのような燦然と輝く勲章的なものではなく、ましてや、単にマイナーなアルバムというものでもない。なんというか、少数派の人々によって掘り起こされて歴史の流れによって再評価される種類のアルバムの事である。

よくよく考えたらピンク・フロイドの『夜明けの口笛吹き』だってビーチボーイズの『ペットサウンズ』だってあと大雑把に言えばnirvanaの一部の作品だってoasisの一部の作品でこそ今でこそ全ディスコグラフィーが普遍の名盤として世間に君臨しているが、リリース当初はそれほど世間に大絶賛された訳ではないような印象がある。これらは徐々に時代の変遷につれて次の世代の人たちによって何となく発見され、リリース当時では見出されなかった色付けがなされていくような言わば「構築されていく伝説」。

 その意味では日本で今こそ伝説化されているナンバーガールとかスーパーカーは当時に空気を知っている者として言わせて貰えばそんなにセンセーショナルなものではなかったなぁとか思ったり。実は大昔福岡のドラムロゴスで解散直前ぐらいの時期に、ナンバーガールのワンマンがあった時、向井秀徳がチケット持って並んでる客の横を睨みつけながらスッとと通り過ぎて行っても観にきた客ですらほぼほぼ気づいている人いなかったし。

時代の流れによって色づけられていった側面は大きいと思う。 

でもそれでも良いのだとも思ったりする。

もはやカリスマ性だけで自然発生的に人が集まる時代は終わった。所詮ムーブメントなど不可視な幻想なのだから。だからこそそれを利用して世間に対しムーブメントが起こった気にさせた者勝ちだと思ったりもして。そう言うロマンチシズムを知っている人こそが天下取ってほしいし、そこに加担する覚悟は十分にできているものだ。

という事で(唐突に)世の中に知られている訳ではないが、個人的に名盤だと思う作品というのものは誰の心にも存在すると思う。本ブログではある種シリーズとして名盤発掘シリーズとして紹介していきたいと考えている。今回紹介する隠れた名盤はLIVEハウスが完全復活したら今最もアンセムを鳴らせるバンド Who the bitch(以下WtB)のgt、ヴォーカルでありフロントマンであるehi氏ソロ『Here in my song』である

 

2.Focus;

『Here in my song』 ehi(Who the Bitch)

1.ドラネコROCK
2.Pass
3.I'm in Heaven
4.夕凪
5.欅
6.危険区域
7.Stay a night
8.Scream
9.Bagded
10.東京

*1

here in my song

here in my song

  • アーティスト:ehi
  • What's Up? Group
Amazon

総じてバンドのフロントマンは、そこから離れたソロ作品自体フォーキー一辺倒になりがちだが本作は違う、収録曲の中でも特に『危険区域』に纏わり付くヘヴィーな倦怠感から初期Smashing Pumpkinsの要素の感触に近いのだ。言うなれば本盤は日本のオルタナティブロックに分類されるものなのかもしれない。

tower.jp

ehiの紹介文

元 PATTY'S OBLIEN、NUDEのヴォーカリスト、EHIのソロ・アルバム。フェイヴァリットにビョーククランベリーズとともに浅川マキ、斉藤由貴を挙げているのもどこか納得できるその歌唱は、ブルージーかつ、ちょっぴりノスタルジックな趣も。情熱的なギター・サウンドにもまったく負けない歌声は、ACOCHARAなども想起させる。聴くほどに、彼女の存在が脳に染み込み、膨張してゆくようなインパクトがある。 

個人的にこのアルバムがSmashing Pumpkins要素」を彷彿とするのは別に似たような曲があるからと言うわけではない。何というかメランコリックな感じも、オルタナティブな怒りも、ポップスの煌めきも、ロックのダイナミズムも全てを手に入れようとする「途方もないロマンティシズム」がそのバックグラウンドに感じられるから。
 早速一曲目「ドラネコrock」に触れよう。このタイトルを見ればスマパン繋がりで彼らの楽曲に「堕天使ロック」という邦題が付与されてた事を彷彿とする。そしてもう一つの要素として本曲は寧ろタイトルにもあるようにドラネコと言うセンスであるとか、以下、

ふらりふらりたどりつくわ

などのフレーズから彼らよりも70年代以降の歌謡曲的なルーツを感じたりして。『プカプカ』という70年代の昭和歌謡がふと頭をよぎったり。


www.youtube.com

 だから個人的に「スマパン要素」を感じるのはむしろ2曲目の「Pass」なのかもしれない。どこかアンビエントな感じで始まる展開は確かにMassive  Attack『Blue line』や『Mezanene』辺りが真っ先に浮かぶが、個人的にむしろ『メロンコリー〜』辺りのスマパンが優先して浮かぶのはやはりメロディーラインの「途方もなさ」は断然後者に近いものがあるように思える。
そして3曲目。そんな地平の遥か彼方に連れ込まれる『pass』からなだらかに地上に降り立つようなーこれは狙いかもしれないがそういうランディング感とは正反対のセンスのタイトル『I’m in heaven』のなんと爽やかなロックサウンド然とした鳴りに安心感を覚える。そんな安心感の所在はこの種のタイプの曲はWtBでの演奏も想像に難くないから。
そして本盤をメランコリックな色彩を加えるのが『夕凪』。
ピアノとアコギだけで織り成される静謐な世界。しかもどこかジャジーな印象を受けるのは、Norah Jones『one flight  down』の歌詞世界と相通ずるものを感じるからだろうか?


www.youtube.com

そして徐々にアルバムは本曲を境に混沌を増していく事をなんとなく予測でき、図らずもそれは『檸』『危険区域』で的中する。先の配信liveでも触れていたようにこの曲のモチーフは女性関係にだらしない元バンドメンバーをモチーフにした割とサイコスリラー的な世界観。それを差し置いてもこの曲の鳴りは強い。2年前初めて聴いた時に真っ先に思ったのが「これバンドスタイルでライブで聴いてみたいな。」って事だった。
この曲を数年前当時買ったばかりのAirPods proに変えて初めて聴いた印象で個人的に最も曲のクオリティとして【格上げ】したのは『Stay a night 』である。なんと弦楽器と野良猫に優しい眼差しを捧げるかのようなehiボーカルが絶妙に溶け込み、絡み合っていく様はセクシャルな印象すら覚えた。ちなみにここで「野良猫」が登場する事に一曲目のタイトル『ドラネコrock』との地続き感を覚えたりもして。

そして本盤は『scream』で一気にクライマックスに突入する。

探して昔見た空変わっていける 地図のない未来
いつもここで笑ってたい

という歌詞がどこかWtBの『カナリア』辺りとオーバーラップする。というのも、どこかフィナーレを予感させる静かに奏でられるイントロで始まる『bagdat』を経てラスト曲『東京』のもう全てを出し切ってポツンと荒野に残されたかのような感覚がある。

それにしても『東京』というタイトルの曲は世の中に死ぬほど溢れていて例外なくここで収録されている訳だけどここではアレンジの細かさに注目したい。元々『危険区域』が最初から好きだったのだが、『Pass』『夕凪』とか名曲味がマシマシになる。ふとこういうことも思ったりする。ehi氏にとってWtBとソロ活動との棲み分けはどういうものかと考えた時に、個人的に10, 000maniacsとボーカル、Kristin Harshのソロワークを彷彿としたりして。


www.youtube.com

www.youtube.com

そして、ふとこういうことも思ったりする。ehi氏のもう一つの欠かせないプロジェクトとして「絵画」を描く画家としての活動がある。彼女のインスタグラムなどにおいても絵画の数々が上がっているのだがこれがまたグリム童話のようなポップさとどこか社会的背景をも含んだディープなビハインドストーリーをも内包したようなアクリル画などの作品を数多く残している。

こちらは2年前に開かれた個展の模様。

この作品と『Here in my song』との共通点とはなんだろうか。それを象徴したのが以下の絵画である。

おお、パッと見た瞬間【絡みつく毒蛇】が出てくるってだけではないが『Here in my song』の『危険区域』が流れてくるではないか。或いは『メロンコリーそして終わりなき悲しみ 』時期のスマッシング・パンプキンズにある童話性とオルタナティブ要素とを融合させた感じも浮かんでくる。正にこの絵画を見た印象と『Here in my songs』を聞いた瞬間とが符合するのである。

 

3.Final Remarks

最後に自分の思いをここで綴っておきたい。最近というか、ずっと前からであろうが「音楽に理屈はいらない」「文字で語るのに意味はない」等とX(旧twitter)ほざく人をよく見るけどそれは単なる語彙運用能力の欠如してるのを自覚した負け犬の遠吠えだと思う。文字は音楽の魅力をencourageするものであると信じている。更に言えば1991名盤の量産の要因は評論が多くあったからだと思う。もはやジャーナリズムの死は音楽の死そのものである。あと「古参」と呼ばれるオールドファンの欠点は彼らの作り上げてきた応援スタイル以外は認めようとせず、たとえ当該バンドにダイレクトに届く革新的な応援スタイルを持つ新規が出てきたとしても、尽く排除し、自分達レベルにまで引き摺り下ろそうとする点だ。古参とは時にブレイクへの弊害になり得るのでは無いだろうか。分野問わずアーティストの中には10年以上作品に触れ支持している人もいるが、途中肌に合わない作品に出会す事もあった。
だがそこを乗り越え新たなフェイズを支持する「自分内再ブレイク」に至るのはその人のヒューマニティーの果たす割合が大きい。才能は人をattractするがそれをkeepするのは結局人間性だったりもするのだから。そして本題に戻そう。現在廃盤で配信されていないこの隠れた名盤に光を当てたいのだという思いで筆を取ったのだ。アクセス数など知らん(笑)ここから熱狂の光を灯したい。映画・音楽・演劇全て言えるが支持媒体に火を付けたいなら「どうせ一般ウケしないだろうけど」などと前置きする必要はない。むしろ「ムーブメントは起こっている。」とカブいてしまえばいい。
火のないところに煙が立たないのがリアル社会なら、煙なき場所にこそ燃え上がるのがネット社会なのだから

 

*1: Who the bitch関連記事は以下二つ。

nenometal.hatenablog.com

nenometal.hatenablog.com