S-igen企画pre. #吉田彩花 一人芝居『すうぷ』YouTube夏期限定公開記念レビュー
いつだっただろうか、そもそも『soup』の語源を調べてみると【汁物】ではなく【煮汁に添えるパン】だったとの事を聞いた時結構驚いたのを覚えている。
結構、というより最早根底からひっくり返されたようだったいった方が近いのかもしれない。
だって「スープの飲み方一つで…」と言うよりも我々のスープに関する既成概念自体が遠い過去からすると「スープを飲むこと自体がもう普通の行為じゃない」という事だからだ。
そんなことを思いながらこの演目を鑑賞した。
そして本演目の主題歌であるなみたすゐ『soup』は本演目が上演される半年ほど前ぐらいから既に知っていたのだが、最初に聴いた時に「普通でいる事」の窮屈さの所在は多様性へと希求せんとする本能にこそあるものだと解釈していたが、本演目の焦点は少し違ってて「自由に生きる事」へとシフトチェンジしている点に脚本の吉田彩花のオリジリティを感じたりして。
いずれにせよ、人は『すうぷ』『すーぷ』『スープ』『soup』を飲む度に何かを絶えず何かをリセットしているのかも知れない。
私個人も舞台演劇が好きで今まで様々な演目を見てきたがこの『すうぷ』に関して数多くの既視感のあるシーンや心理描写に出くわしたものだ。
その象徴としての「一人っ子」という設定。
そう、というのも私自身も一人っ子だった為に幼い頃から他者から常にプロトタイプとバイアスを突き付けられてきたから、というのもある。
だが不思議と一人でいても孤独では無かったし、むしろ親戚一同の集まりみたいな大勢いる会合がすごく苦手だったくらいだ。親戚一同の集まりで他の子供たちが兄弟姉妹同士でつるんでる中当然私は黙ってると「やっぱり一人っ子は大人しいわねえ」かなんか言われがちで「そりゃ一人でブツブツ喋ってたらおかしいやろ💢」などとアングストしてたのを思い出したりして(笑)
常に私の中に第2の私が心のチューニングしてくれる音を鳴らしてくれたからむしろ孤独であることの方が心地よかったものだ。
ちょうど今回演目でのなみた氏のように。
そして、本演目がS-igen企画における最大の挑戦作だと思ったのは曲『soup』はジェンダー論などを含めた多様性が下地にあってこその普通への違和感が吐露されてると思うが本作は「普通」を日常生活さながら使う「普通」に焦点化しており人によっては絶望の物語と捉えかねない危険性を孕んでいる点でもある。それでも私はラストの台詞で希望と受け取ったがそこに本演目のコアがあるのかもしれない。
ギリギリの状況で見える希望の光が差し込むのだ。
そこが良い。
少し話は脱線するが吉田氏がSaikaとしてリリースしている『不敵な迷子』というオリジナル曲があるがこういうフレーズに出くわす。
良いものは少しで良い 植木を一つだけ磨いた
当初、本フレーズは喧騒の毎日から心の安らぎを求めようとする歌詞世界であってポストコロナへ向けた希望の歌だと思っていたが、こうして『すうぷ』とを比較してみるとここにパンクスピリットにも似た美学を感じ取ることができような気がしてならない。
さて、ここから更に妄想力を逞しくするが、もし海外で本作がリメイクされるならば恐らくracism(人種主義)がテーマになるだろう。
『soup』とは多様な具材を煮込み生成される暖かい液体。
それはさながら人類の歴史で多様な人種が配合した上で育まれる血潮とも準えられる。それをあくまでドメスティックな物語へと落とし込めた所に本作の独創性がある。
そんな思いを抱きながら2年前に見た記憶を重ね合わせながらこの演目に向き合おうと思う。
また2022年とは違った味わいがあるだろうから。
正にこの歌の響きのように。
正にこの方のツイートされている通り、Sui Namitaさんが鳴らすのは【感情のマグマ】。日常の何気ない光景を素材にグツグツ様々な感情のスパイスをぶち込んだ果てにできるスープのような楽曲、それが「#すうぷ」である。
— ネノメタル𒅒Ahead Of the TRUTH (@AnatomyOfNMT) 2022年12月25日
【足の組み方一つ】のフレーズの歌い方が日によって変容するのを聴くのが楽しみ。 https://t.co/gIVQuhBmzy pic.twitter.com/mHAUtqqjN6