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映画『#怪物』(#是枝裕和)〜怪物の正体とは?音楽論を交えてのちょっとした考察〜

家族愛もイジメも児童虐待も友情も性への目覚めもどこか淫靡体質な最近の政治的世相を風刺したような描写もあちこちに散りばめておいて最後の最後に「で、あなたはどう思う?」と私の心の奥底に全てを丸投げされたような久々に重厚な何かを受け取った正にタイトル通りの怪物作である。

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この膨大な伏線的なものを投げかけられて最後の最後になって「で、あなたはどう?」と丸投げされる感はどこか2014年の傑作ゴーン・ガール辺りを彷彿とさせるような。
ここ最近エンターテイメント色の強い分かりやすい感動や共感を得られる作品が多い中本作は珍しく良い意味で「分かりにくい」作風であるといえよう。


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因みに話は意外な所に飛躍するが、今現在関西を中心に活動している女性SSW、優利香(ゆりか)の『ハートレス人間』が好きな人は必見かもしれない。なぜから別に本作の制作過程とは全く関係ないんだけれども優利香の『ハートレス人間』の歌詞が物凄く本作とシンクロするからだ。

本曲について過去の優利香に関する記事で以下のように定義している。

nenometal.hatenablog.com

「自分の本当の気持ちとは裏腹に愛想笑いを浮かべてしまう、私はそんな空虚な「ハートレス人間」そして私に立ちはだかる得体の知れぬ「怪物」の正体とは?」

勝手に本曲を私なりにまとめてしまったが、そんな内省的な心情をこのポップスフィールドで綴ったこれまた珠玉の名曲である。後の「ABCホールアフタートーク」を聴きつつふと思い出したけど『ハートレス人間』辺りからそれまでの盛り上がりを更に助長するような物凄い盛り上がりが起こったのは驚きだった。或いは世界が滅びようがどうにでもなれ的なヤケクソ感にも似た覚醒感。正に「ライブマジック」と呼びこんだ曲。優利香楽曲の中でも、いやJpopのフィールドでも内省的な部門に入る本曲がなぜここまで起爆剤となったのは、ややトートロジカルな言い方になるが、この歌詞が「内省的」だからだろう。誰もがこのコロナ禍において内なる【怪物】を意に反して育んでいたのを認知しているのだ。そしてその存在の正体も無意識に知っているからだ。


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そして本曲に以下のような一節がある。

怪物とは他の誰でもない 鏡の中のもう1人

と言う誰しも抱え込んでいるもう一人の狂気的な自分を「怪物」とメタファーを用いたポップソングだけど、本フレーズをもはや「影の主題歌」と呼称しも差し支えないくらいである。

 あともう一つ思い出した曲が東京を中心に活躍している役者兼SSWのSaika(吉田彩花)『Have a goodday~青の時代』もあげられる。
本曲にこういう一節がある。


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押し付けの優しさは心を殺す 中身のない正義は失笑を産む

本曲における安易な共感への反発とステロタイプの押し付けに対する抵抗は、正に本作で描かれている少年達の心象風景そのもの。

本作にはボーカルを伴った劇中歌・主題歌がないからこそこういうリンクが発見できたのかもしれない。
にしてもこういうシンクロニシティを発見するのはエンタメの醍醐味って感じがしてとても楽しい。

あと、子を思いながらもどこか我が子を育てきれなかった自分に頼りなさを感じているシングルマザー早織を絶妙な匙加減で演じられた安藤サクラも凄く良かった。
これは是枝監督の過去作である万引き家族*1の時も思ったんだけど、たま〜にこの種の個性強い女優だとか芸人畑の人が映画出ると何とか爪痕残そうと必死感が滲み出すぎて痛い事になってる人がたまにいるんだけれども、この人は彼らとは一線を画していると思う。自分のこの映画の中での全うすべき役割をしっかりと把握して認識してある意味「抑えた」「徹した」「ストイック」な演技をしているっていうのがすごく伝わってくるのだ。

 最後に本作のタイトルについて一考察。パッと見「怪物」と言うタイトルは少し大げさで、実際は「心の闇」とか、「鏡の中の自分」とかそういうちょっとソフトなニュアンスのもの方が合っていると思うかもしれないが、実はある場面にホントに怪物のようなものが心の中で出現する場面がある。これにはびっくりした。

これどの鑑賞者の頭の中にもゴジラのような巨大な怪物が狂い倒して叫ぶシーンが浮かんでくる事だろう。


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 正にゴジラの〇〇」!!!!
でもこれ以上言うとネタバレになってしまうし、とは言え本作はギミックに溢れた所謂「ネタバレ厳禁映画」ではないので鑑賞経験者としては誰しも言い出しかねない人が出てくると思うので、多分ロングランするんだろうけど早めに観に行った方がいいと思います。

 

*1:万引きで生計を立てる家族の元に、怯える仔犬の目をした少女が迷い込む。腕にはDVを匂わせる傷跡。やがて彼女はその一家との交流(万引き講習含む)を経て本当の家族とは何かを知る。にしても『万引き家族』公開を狙い定めたかのように登場人物と全く同い年の女児の虐待事件が起こったりと、傑作であるほど時代の空気を必然的に投射する映画は多い。傑作は常にその時代の空気を必然的に投射する。『万引き家族』に関する当時のツイートより