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映像劇団テンアンツ『#うさぎのおやこ』レビュー

1.impression 


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natalie.mu

あらすじ 

軽度の知的障がいを持つ来栖玲(くるす・あきら)は子供に間違われることにコンプレックスを抱いている。母親の梨加は、夫を亡くし玲の生活に精神を病み、ネグレクト状態になっていた。ある日、家賃滞納で追い出されそうなると、玲はデリヘルのアルバイトに応募してしまい……

というストーリーはどこか過去作品の要素を内包しており知的障が持つ女性という意味では舞台化もされている『ヌーのコインロッカーは使用禁止』の主人公を、そして子供に対する毒親育児放棄という面に関してはロングランの傑作『ひとくず』をも彷彿とさせる。そして本作でも、あの親から見放されたように生きてきた『ひとくず』における鞠だとか、『ヌーのこコインロッカーは使用禁止』のヌーのように障害を持って生きる、いわば両作品の要素を持つアキラという女性が登場する。

『ひとくず』といえば、孤独な少女鞠がカネマサと初めてラーメンを食べるシーンがあるのだが、その時「鞠、いちいち食べて良いか訊くな。食いたいものは食やいいんだ、飲みたいものは飲みゃいいんだ...」という台詞がある。 

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それは私には「自分の人生なんだから好きなように生きろ。」って広い意味での人生訓としても解釈されるのだが、この事から、カネマサという存在は鞠にとっての「自分の人生好きなように生きろ。」という事への体現者だと言えるのだが、本作は更にそこからの視点が盛り込まれている事に注意したい。というのも、ラストシーン付近で「もうママと一緒にいるのは嫌や。自由になりたい。」というセリフがあって、それに対して梨加は「ふざけたこというなや!」

その自ら選んだ人生以後の岐路から踏み込んで「だからこそ、我々はどう生きるべきか」を問いかけてくれる作品だと思う。 


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 アキラはポスタービジュアルや予告編などを見ても分かる通りまるで小学生と見紛うような様相をしているが20代の障害者という設定である。いや、設定と言ったが実際に演じているアキラを演じる清水裕芽さん自体が20代の女性である事に注意したい。



 因みに主演の清水裕芽さんの演技は舞台版『ひとくず』でも拝見してるけどこの方の北村鞠役も良かったけどなんと別バージョンではカネマサの少年時代も完全に演じきっていた。当時は彼女を完全に子役と思い込んでいたので何かで実年齢を知って物凄く驚いたのを覚えている。
 実際に清水さんという俳優が今まで舞台で子役を演じる様は何度も観てきたが本来の自己と等身大の20代の女性を演じ切ったのは初めてだろう。
 そして本作は2度鑑賞したが、真の悪人というものが登場しないことがわかる。
 ただ誰しもが心の拠り所に歪みが生じると精神の崩壊へと向かう危険性をはらんでいるだけの事で、だからこそ障害を持ちつつもレオンという心の理解者と出会い、徐々に20代の大人の女性の笑顔を獲得していく玲に希望の光を見出せるのだ。そして自分の障害だとか孤独や家族愛に飢えた寂しさに闘いつつ生きてきたアキラを見つめるレオンの瞳そのもののようにテンアンツ史上最も優しい作品であるという印象を持った。
 
きっとシーンによってはリアリティと演技の狭間に苦悩したのはなかろうか。私は本作はある意味彼女のドキュメンタリーでもあると思う。
そして注目すべき点は今回上西雄大氏の役柄が「主治医」であって今までの893だ、運び屋だ、前科者だのとは一線を画していると言う事。予告編53秒辺りの「はい。」という台詞の放たれ方が幾分『ひとくず』の後半の丸くなったカネマサの「はい。」と驚くほど似ている点から分かるように基本「偏屈だけど良い人」なのだ。
その意味で舞台『探偵かねだはじめたがやすけ』の主人公にも少し類似しているのかもしれない。

2.Focus 
ここで音楽、特に劇中で流れる挿入歌に関して触れよう。
タイトル曲とも言える挿入歌『うさぎのおやこ』を歌唱しているのはSaika(吉田彩花)という役者兼SSWである。
そもそものきっかけは彼女のオリジナル曲が『サニー』は2023年の映像劇団テンアンツの人気演目「ヌーのコインロッカーは使用禁止」の挿入歌にも採用された事からその年の秋の舞台公演『探偵かねだはじめたがやすけ』でも緑川瑠璃子役として出演しオリジナル『瑠璃色』も配信リリースされている、いわばここ最近のテンアンツの鍵を握るニューフェイスである。


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 さて、本挿入歌に関してだが、ある意味物語の一端を担っていると言っても良いほどに曲がセリフとして響き渡ったとも言って良い。タイトル『うさぎのおやこ』とは紛れもなく梨加と玲の母娘を意味するのだが本編で語られない玲におけるママへの心情は挿入歌で情感を込めて歌われている。
その意味ではあの『ひとくず』挿入歌『ひとくずの詩』と双璧をなすかもしれない。


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あと歌い手であるSaika氏曲の中ではここ最近の演劇の一場面のようなポエトリーリーディングスタイルに通常の歌唱を混合させる今現在展開しているLIVEでのスタイルでの成果もあ十分生かされていると思う。

 その『探偵かねだはじめたがやすけ』の『瑠璃色』を思わせるたおやかなボーカルと、後半のアレンジャー康士郎がNanaさんという役者にオリジナル曲として提供した『星のゆくえ』を彷彿とさせるようなドラマティックなアレンジがとが見事に融合した紛れもなき「令和の歌謡曲」となっている。


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 これは所謂ネタバレではないので詳細は省くが予告編でも聴くことができる主題歌が存在するが、この本曲とはある点でコンセプチュアルに繋がっている事が分かり、ハッとした。
その意味でも注目に値すべきだと思う。
 本作は『ひとくず』と配役や役名で共通点も見つけられる。
例えば古川藍氏演じる障害福祉課職員の苗字が「北村」だったり、カネマサを古くから知っている刑事役の空田浩志氏がやはり本作でも刑事役として出てきたりして。(空田氏が同一人物だと考えるとこの2人が親子てのも色々繋がってくるな。『ひとくず』ではこの刑事は娘の結婚式がどうたら言ってたし)相補分布的な両作だと思ったりもして。