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Music, Movie, and Manga sometimes Make Me Moved in a Miraculous way.

ゴミのような世の中に真っ向勝負を挑む、怒涛の映像アートと爆音の嵐から構成される混沌の109分、#大久保健也 監督『#CosmeticDNA』爆裂レビュー(ネタバレあり)

💊ウイルスや戦争や憎悪やハラスメントで蔓延するこのゴミのような世の中に真っ向から銃撃戦を挑むような怒涛の映像アートと爆音の嵐に一瞬たりとも目を逸らさず固唾を飲んで見守った109分の衝撃作『Cosmetic DNA』爆裂レビュー💣

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このゴミのような世の中に真っ向から立ち向かう、怒涛の映像アートと爆音の嵐からなる109分の衝撃作『#CosmeticDNA』爆裂レビュー

Table of Contents

0. Rock, Punks and Alternative is dead

1. Overview&Characters

2. Impressive Elements

 2-1 First impression

 2-2 Second impression

3. Which is the most Alternatve Beyond works?

4. Further Perspective

0.Rock, Punks and Alternative is dead

Don’t spend time beating on a wall,

hoping to transform it into a door. 

 

扉に変わるかも知れないという、勝手な希望にとらわれて、壁をたたき続けてはいけないわ。 

-Coco Chanel(ココ・シャネル 1883ー1971) 

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【既成概念を破壊する】この言葉を今まで何度聞いた言葉かわからない。それは音楽や映画、その他あらゆる媒体において言えることなんだろうけれど、いざ、そう言うレッテルの貼られたに対峙してみると博愛主義的なものだったりと従来のポップスフォーマットに乗っかったものだったり、案外そうでもなかったりするものだ。確かに「パンクだ」「オルタナティブだ」というパッケージに部分に関してはそうだろうども案外中身は愛だの友情だのゴミみたいな固定概念と薄っぺらいポピュラリティーに縛られた中身だったりする事も多い。そう考えたら今の音楽シーン「パンク志向」の音楽はあれど真の意味でのパンクやオルタナ音楽ってのは存在しないのかもしれないとすら思えてくるのだ。そして、その象徴としてまともなカルチャーにおける宣伝・批評媒体は雑誌でも批評家による著作でもなくSNSにしか残像していないんじゃないだろうかという漠然とした不安がある。そうなると、SNSでの言明の生ぬるさったらもはや批評の批の字もなくて、そこそこ過激だとされるロックやパンク・ミュージックを好んで聴いといて、いざ、タイムラインでは同調圧力押し付けても生ぬるい意見言い合っていいね押し合ってあんた一体何を学んでんだって話でもある。

そう考えたら今の音楽シーン「パンク志向」の音楽はあれど真の意味でのパンクやオルタナ音楽ってのはないかもしれない。ファッションとしてのオルタナティブでありパンクはやけに多いが...その意味合いで言うと、先日観たダイナソーJr./フリークシーン』は非常に興味深い作品だった。


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「伝説など不要だ」と言わんばかりに度重なる仲間割れや脱退からの交代や解散を経ての再結成、グランジシーンを体現して今も尚生き残りひたすら轟音をかき鳴らし続ける30年以上のバンド史の凄みを描いたドキュメンタリー映画。そこで判明した事実とはこのalternativeとは音楽ジャンルでもある現象でもなく彼ら自身の生き様そのものであったという衝撃的事実。本編にて「"グランジ"はニルヴァーナらをショボくした音ばかりになって93年には消えてしまっていた。」という言及があるがこれも妙に納得してしまった。

ここで改めてalternativeを定義したい。

Alternative(=オルタナティブ)の定義

そもそも既存のものに取ってかわる新しいもの。

1990年代のカウンターカルチャー音楽スタイルのこと。

オルト・カルチャーとも言う。

という事だから今現在オルタナティブという意味で残像しているのは真の意味でのオルタナではなく単にスタイルを模倣しただけのものだろう

 だからカート・コバーンのように、だらっとしたカーディガンの下に古着のネルシャツを羽織り、ボロボロのジーンズ着て長髪でギュインギュン鳴るギターをかき鳴らしても、別にそれはグランジでもオルタナでもなく単なる劣化コピーって事。かつて「ロックは死んだ」と言われて久しいが、「パンク」も「グランジ」も「オルタナ」もとっくに死んでいるのだろう。その先に何があるのかオルタナティブの更にその先(beyond)を模索する姿勢ができて初めて突破口が見いされるのだと思う。*1そして、ここ最近、そんなパンクかつオルタナティブな音楽がの不在を確信したもう一つの理由がここにある。

 そう、正に本来の意味でのそもそも「既存のものに取ってかわる」新しいオルト・カルチャーなるものが音楽部門ではなく映画部門において出現したのである。

そんなポピュラリティーに縛られた既存エンタメをみるも無惨に破壊するカウンターカルチャー的存在、それこそが今回の記事のテーマである大久保健也監督による『Cosmetic DNA』という作品である


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1. Overview&Characters

去年の秋頃だろうか、東京でかなりインディーズ映画ファンによって話題になっていて評判も高くて、本作はいち早く観たいと思っていたが満を辞しての大阪九条駅近くにあるシネ・ヌーヴォ初日(3/26)の上映である。
 と言うことで個人的に期待値がかなり上がってて、逆に妙に期待はずれになったりしないかと不安感すらあったのだが、もはやそんなハードルなど軽く超えるぐらいの物凄い作品だった。いや、そんなもんじゃない。本作はこれまでの人生で観た映画中で最高最強の衝撃作、というか潜在意識化か遺伝子レベルでこういう作品を希求していたのかもってくらいのインパクトである。

そんな衝撃作品、『Cosmetic DNA』のあらすじは以下のURLのホームページを参照にして引用する。

cosmeticdna.net

[Brief Story]

東条アヤカ(藤井愛稀)は、コスメ配信を主なきっかけとして配信視聴者である理系の大学院生のサトミ(仲野瑠花)と、やがて、彼氏と同棲中のアパレル店員のユミ(川崎瑠奈)と出会い、いつしか3人は仲良くなって、いろんなことを語り合うように。そんなある日、アヤカは自称・映画監督の柴島恵介(西面辰孝)からナンパされ、昏睡薬を飲まされ、ホテルに連れ込まれレイプされてしまう。そんなこともあってかなり凹んでいたアヤカは、更にその柴島はが今度はユミを襲おうとしていることを知る。「許せん!!!!!!」はらわた煮えくり返ったアヤカらはとうとう柴島を暗殺しようとする。

........と言うこのBrief Storyからも想像できるようにかなり過激な要素や描写もあったりもするのだが、そのストーリー展開の下地にあるのは女性達が古い価値観に囚われずに自らのアイデンティティを確立するようなあの香水等でお馴染みCoco Chanelの生き方的スタンスはあったりするのだ。本編でも冒頭でも東條アヤカ憧れの人物として示したような彼女の名言が引用されている。

が、本作はその種の映画にあるシリアスさに傾倒するのではなく、何より世に蔓延る全ての「ハラスメント」要素(「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」「スメハラ」など…)に対し中指を突きつけるが如くの怒りをベースに極彩色に塗りたくった所謂【映像のエレクトロパンク】を体感すると言ったエンタメ色の強い趣になっているのが大きな特徴である。

 やがて、この醜悪なパリピ男の権化のような柴島恵介はこの3人によって無事に(?)殺害されて、彼から流れ出るドロドロした真紅の血液が実はコスメとして引き立つ、みたいなよくわからん設定があったり、男性との生殖行為無しで、女性がこれを飲むだけ妊娠できるみたいな不思議なドラッグを理系の大学院生であるサトミが発明したり、ドラッグに耽る描写や、エキストラ大殺戮みたいな場面もあったりと、とにかく倫理観もかなぐり捨てて突っ走っていく感じはどこか奇しくも藤井愛稀氏も出演している阪元裕吾監督の『黄龍の村』や『最強殺し屋伝説国岡』にもあい通ずる側面があると思う。
 とは言え、ファーストインプレッションとしては、まるでストーリー展開とか伏線回収とかは置いといて、まるでミュージックビデオ(MV)でも観ているような映像のアート性を込みでガンガン突っ走っている感が強く、正に、ここ最近のウイルスや戦争や憎悪や嫉妬やマウント欲求やらハラスメントで蔓延するこのゴミのような世の中に真っ向から銃撃戦を挑むような怒涛の映像アートと爆音の嵐に一瞬たりとも目を逸らさず固唾を飲んで見守った109分、と言う印象もある。

 更に本作の主な登場人物を劇場パンフレットをもとに紹介する。

[Main Character]

💊東條アヤカ(藤井愛稀)...コスメを愛する美大生。コスメ配信を通じてサトミと出会う。

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💊西岡サトミ(仲野瑠花)....生殖工学を学ぶ大学院生、アヤカとは配信がきっかけで出会うf:id:NENOMETAL:20220410164501j:plain

💊松井ユミ(川崎瑠奈)....彼氏と同棲中のアパレル店員。二人には偶然公園で出会う。f:id:NENOMETAL:20220410164452j:plain

💊柴島恵介(西面辰孝).....(自称)映画監督、東條アヤカをレイプしようとする(してしまった?)とんでもない奴

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💊吉田大輔(吉岡諒).....柴島の古文的存在だったが彼の死後、徐々に頭角を表し始め映画監督にまで上り詰める

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2. Impressive Elements

2-1 First impression💊

で、先ほどMVに近いと言ったが…そこでふと思い出したのが主に90s以降から今もなお、イギリスのオルタナ・ミュージックシーンの核としてとして活動を続け、している全世界でトップに君臨し続けているパンクロックバンドPrimal Screamの存在である。*2
 彼らの曲の中でも『Country Girl』『Swastika Eyes』などの女性たち(一部微妙な人いるけど置いといてw)が主人公となって男社会をぶっ壊すみたいな展開の、あの辺りのなんでもやっちまえ感溢れるエレクトロ・パンク・ダンスミュージック*3のMVのような曲世界に何らかのカタルシスを見出したことのある人間にはどハマリだと思う。

てか私が正にそうだから(笑)ここにあげておこう。


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*4

更に、本編には絶えず出てくるのがクラブで踊るシーンで、EDM系統の音楽がガンガンかかり東条アヤカらがコスメをバキバキに決めて闊歩するシーンなども非常に印象的で、どこかしらあの伝説のEDM分野でのプロデューサー兼DJであるAviciiの『Wake Me Up』MVのストーリーも彷彿としたりして。*5


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まあ確かに『Wake Me Up』はracism(人種主義)の問題も多少は内包しているようで、ややシリアスではあるんだけど本MVでの登場人物である姉妹によるラスト付近の会話にて、

妹「Whre are we going? 

(私たちこれからどこいくの)」

姉「Somewhere we belong 

(本当の私たちのあるべき場所よ)」

と言う自らのアイデンティティを求めて行こうというメッセージは本作と確かに共有できる部分はあるかもしれない。にしても『Country Girl』にせよ『Wake Me Up』にせよ、本当の自らを取り戻す的な内容のMVってなぜカントリー調というかカントリーを音像として取り入れたものが多いんだろうな、やはり何処か「本当の自己=原点回帰=カントリーミュージックって図式が無意識の内にそれこそDNAレベルで流れてたりして。

この本編ではこの3人が「アイドルになる。」という設定もあって『絶滅危惧種ガール』のようなアイドル要素のある楽曲が大々的にフィーチャーされている点が違いと言えば違いなのだ。


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そして、本作鑑賞時は大久保監督と藤井さんらの出演者らの舞台挨拶付きだったのだが、製作費に関して厳しい側面もあったようでアイドルのMVにおける映画撮影シーンにエキストラを雇えなかったというの事情があったらしいが、このエキストラの代用がなんと段ボール製で、そこに書かれたオタク達のイラストレーションがアニメのような動きで本編では使用されていたのだが、怪我の功名ってかこれが逆にめちゃくちゃ良い効果をもたらしてたと思う。

このエキストラ・段ボールアニメは本物の人を用いるよりも、「キモオタ」「アイドルオタ」達の中に渦巻く混沌とし下心だとか承認欲求だとかそういう薄汚い感情の部分のみが露呈されたような醜悪さが引き立つ効果が内包され、むしろシニカルでアイロニックな意味合いや効果が高められているように感じた。*6
簡単に言えば段ボールアニメの方が世の中への怒りの部分が表現されているような気もする。
あと人の嘔吐物や血液はこれでもかってくらいドロドロにめっちゃ忠実に再現してたんだけど(笑)*7

 

2-2 Second impression

さて、本作は前記事の『アリスの住人』同様2回鑑賞している。2度目の舞台は京都みなみ会館である。初回はMVのような怒涛の展開に固唾を飲むように見入ってしまった109分だったが、今回はじっくりと登場人物の心象風景にも目が止まって感情移入している自分に気づく。初回のあのジェットコースター的展開に固唾を飲んで見守る感覚があったけれど、各々のシーンに心の視点がフォーカスされた、というか、各々の登場人物の心象風景に感情移入して鑑賞する事ができたように思う。

特にユミの「子供はプリプリして可愛い」とか絶望的な子供願望トークに失笑しつつ、実はその言葉の裏には子供が産めない体であるという告白をするのだが、そういう辛い過去とのギャップは非常に泣けたものだ。
 そして最後の最後のユミとアヤカが、
クライマックスシーンであれだけこだわり抜いていたメイクに関して、もうそれは不要だ、だなんだかんだ言って2人がキスするシーンがあるんだけど「もうこれは名画のクライマックスシーンか。」ってくらいめちゃくちゃ感動してしまった自分にも驚いた。因みに涙腺がないと自負してる程どんだけ映画やLIVEで感動しても泣く事がない私がクライマックスで涙が溢れた。悲しいとか嬉しいとか喜怒哀楽の感情以外の圧倒的に突き動かされた時の第五の感情による涙がそこにあった。

 あと個人的にこの作品に対して非常に腹括ってるなと思うのが飲み干した空き缶のぶちまけ方が潔くて良き。他の作品など観てもこういう時コンプライアンスを配慮してかどんなやさぐれた役柄でも割とお行儀よく缶をキッチリ床に置いたりゴミ箱に入れたりするのだがそういう余計なものを切り捨てたり、あと発明されたCosmetic DNAカプセルにちゃんと様々な表情の絵文字がある感じとか、会話の途中でもぶつ切りしたりする潔さも計算され尽くした感じがあって観てて非常に気持ち良いのだ。もうサイケな映像からオタ描写のキモさから飲み干した空き缶のぶちまけ方に至るまで悉くツボをつく。

 SNS上でも私が今まで観た二回とも性客の割合が多かったのを不思議がっているツイートが散見されたが、『CosmeticDNA』は別にフェミニズム映画ではなく3人が日々抱える社会構造や固定概念に対する怒りや苦悩は性別を超え共有できるものだからだ

 あと舞台挨拶の話に移行すると、藤井愛稀さんは京都みなみ会館シネ・ヌーヴォと2度舞台挨拶でも拝見してるがとにかく終電ギリギリで撮って大変だったとか、このような映像技術の魔法がかかるまでどういう作品になあるのか撮影中は大久保監督を半信半疑状態だったがいざ出来あがった作品を観て「監督、天才かも。」と思った事とか、とにかく予算の面で本作は苦労してただのの撮影裏話から『Cosmetic DNA』の放つコンセプトから映画への思いに至るまでとにかく色んな事を留まる事なく雄弁に話して下さっててとても面白かった。

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 彼女はお世辞抜きでめちゃくちゃ頭がキレる(←ブチ切れるの”怒る”の意じゃないよw、撮影中アヤカ的側面がなきしもあらずな事も言ってたけど)方だと思う。あとユミを演じた川崎瑠奈さんと柴島を演じた西面辰孝さんの本編と実際との印象の違うっぷりも凄まじかったな。川崎さんは本編における「ギャル」要素のあるというイメージの人なのかと思いきや、真逆で物凄いしっかりして上品なお姉さん然とした方だったし、西面さんもチャラ男要素はゼロでめちゃくちゃ物静かな爽やか青年って感じだった。これテンアンツ文脈で言うと古川藍さんとかタイプの役柄によって豹変するタイプの役者なのだろうか。その意味でもまたまた見返すと面白くて3回目がものすごく観たいんですけどね。*8
 では次節では『Cosmetic DNA』は他のオルタナティブな作品とどういう意味合いで比較できるのか検証してみよう。

 

3. Which is the most Alternatve works?
ここ最近本作「Cosmetic DNA」にせよ、のん監督Ribbonにせよ、阪元監督「ベイビーわるきゅーれ」にせよ、どこか現代社会や世相に対する怒りが基盤になって噴出している自分好みの所謂、オルタナティブな作品が増えてきていると思う。この節では(以後、オルタナ映画作品としてまとめて論じたい。)

Scene(1);ベイビーわるきゅーれ

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これ一年たった今では自分でも驚愕案件なんだけど本作品を最初に観た時酷評とまではいかなくとも大絶賛していなかったのだ。過去記事でこの要因に関しては色々記述しているんだけど最近改めて思うのが本作品が日本でようやく社会への怒りや苦悩をエンターテイメントと言う枠組みで落とし込んだ作品が「存在し得るのだ」という事実に自分自身が対応しきれなかったから
当初ちさととまひろがラストのカチコミに行くシーンでマシンガンと銃をそれぞれ構えるシーンに「何でカッコつけてんの?」っていう先入観が拭いきれなかったが2度、3度観て行くにつれ徐々にこのゴミのような社会に対する中指を突きつけるポーズであることに気づいた時のカタルシスは忘れもしまい。ま、一回見て気づいた人もいるみたいだけど(笑)

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Scene(2);Ribbon 

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コロナ禍以後に公開されるあらゆる映画を観てて違和感を拭えないのが「登場人物誰もマスクをしてないやんけ。これいつの話?」と言う歴然としたある種リアリティを突き詰めたテーマの映画にとっては残酷な疑問。その意味で主人公であるのん演じる浅川いつかはじめ彼女の家族全員マスク或いはコロナ対策重装備での外出シーンは逆に新鮮ですらあった。
だからこそクライマックスでの「ゴミじゃない」と言う台詞が日常と映画とがリンクして訴えかけてくるような感覚すらおぼえたものだ。
コロナ禍以降、登場人物がマスクをしていない全ての映画はファンタジーなのかもしれない。その意味で映画を単なるファンタジーに落とし込めなかった最初の作品として位置付けられるかもしれない。

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Scene(3);ポプラン

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それにしても離婚の末に別れた一人娘のあの「(この人に)会ったことあったっけ?」と言う台詞と何かに気づいたようなあの表情の意味深さに思わず溜息がでたし、最後ポプランを追いかけ回して父親の背中に激突して苦しむ息子に泣きながら笑った。様々な感情を呼び込む本作品は上田監督作史上最もディープな私小説だと思う。一夜にして男性器(便宜上ポプランと呼ぶ)を失って取り戻す旅に出ると言う一聴すると爆笑下ネタコメディーになりかねない設定の話にここまで感動している自分に気づいた。これは単にそう言う話ではなくわかりやすく言えば「本当の自分とは何か」を取り戻す為の旅とでも呼称しようか。上田慎一郎監督は公開直前イベントで本作品はいつものような群像劇スタイルではなく私小説であると断定したが各々のエピソードにどこか過去作の要素が示唆的に散りばめられていてそういう意味では彼の映画人としての半生を集大成化したものとしても捉えられるかもしれない。

https://filmarks.com/movies/92820?mark_id=126655552

filmarks.com

 これらの作品に潜む「オルタナティブ性」を探るべく以下の要素を定義しよう・

(A)リアリティ=設定というより細かい描写の現実性があるか
(B)アングスト=登場人物の怒り・苦悩が色濃く表現されているか
(C)カタルシス=クライマックス或いはラストシーンにおいて感じられるか
(D)メッセージ=作品全体を通じて何を伝えたいのかが表現されているか

と言う(A)~(D)の観点で分類したい。更にこれらの要素に対して

◎=大いに当てはまる
◯=適合
△=曖昧
×=不適合.  

と言う基準の比較検討してみようと思う。

(Results) Alternatve Works比較論

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 勿論このグラフで◯が多ければ良い作品という訳ではない。で、どの作品にも共通しているのが物語内部での(C)カタルシスを◯以上は全てクリアしている点である更に興味深いのが(A)リアリティ。『Ribbon』はコロナ禍に翻弄される美術系大学生が主人公という事もあってこのような現実性は重視されているが『Cosmetic DNA』『ベイビーわるきゅーれ』『ポプラン』に至っては血液をコスメにするわ殺人を生業だわ、男性器がどっかに飛んでいくわでリアリティはほぼ皆無である。(D)メッセージと(E)エモーションはどの作品にも満遍なく網羅されているし、作品の原動力となる(B)アングストは『ポプラン』を自身の集大成的スタンスに落とし込めたと言う理由でやや少ないのは上田監督のキャリアのなせる技だろうとも思う。

そしてどの作品にも「ファンタジー感」はほぼほぼ感じる事がなく、むしろ観終わった後どれも日常生活にも符合するある種のメッセージ性をリアリティを持って受けとる事ができるのも極めて興味深いものだ。

 

4. Further Perspective

 舞台挨拶でも大久保監督は「映画というのはありのままをストレートに映像みてそのまま解釈するのではなく、観た人がどう感じるのかが極めて大事なことだ。だから醜悪なシーンや不快なセリフなども本編で取り入れたりしたのは、なぜ不快に思ったのかガンガン悪口でも書いてほしい。」とう言う趣旨のことを仰ってたが(映画でも音楽でも演劇でもなんでも良いんだけど)、昨今の「褒め言葉ばっかり言い合ってSNSで徒党を組んで傷の舐め合いみたいないいね合戦をしがちなファンダムコミュニティが主流になっているエンタメ業界において稀に見る圧倒的発言である。
あと大久保監督は「映画とは観ているその時ではなく観終わった後、帰りの電車の中であれこれ何を思うのかが全て。」だとも仰ってたが本当に映画の本質を知ってる方なのだなと思う。


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上記に触れた作品においてもいえるように、彼ら若い映画監督がもっと主流になって今後の映画業界を支えてくれるような土壌を映画業界はガンガン与えてくれまいかと強く願う。
 ちょっと本論から外れるが、最近ちょくちょく出てくる某監督兼俳優やベテラン俳優らに関して某雑誌記事砲発端の芋づる式に出てくるハラスメント関連の醜聞ラッシュにはもううんざりしているのだ。とっととああ言う連中は消え去ってくれとすら思う。

代わりにこういう映画愛に溢れた完膚なきまでの若手達のエンタメ精神に満ち溢れたオルタナティブな姿勢を持ったインディーズ映画で映画館のタイムスケジュールで満たしてくれと切に願う。去年から今年の入って特に邦画部門において素晴らしい作品に出会す事が多いが、特に制作者サイドのメッセージが色濃く反映された作品が多いと思う。


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 これらのオルタナティブ作品はハッキリ言ってここ最近の日本映画界隈に関する醜聞とは無関係な所に存在している事が何よりの希望だと思う。その証拠に本作品の大久保監督は舞台挨拶にて「ここ最近の映画界隈のニュースに対するアンチテーゼ的なスタンスに位置付ける事が可能だと。」と言った趣旨の事を断定しているし、『ポプラン』の上田監督は以前より制作サイドにおける役者へのパワハラ等の防止のために一日の撮影時間をキッチリ「〜時まで」と固定するような労働基準を設けていたりする。

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加えてのん監督Ribbonに至っては本作品のテーマの根底が芸能界的システムの抑圧に対するレジスタンスとしても捉えられるからこそアングスト要素が感じられるであろうし、阪元監督も『ベイビーわるきゅーれ』にセクシャリティ要素を一切排除している事にも既存の映画界へのcriticism(批評主義)が根底にあるように思う。総じてこれらの作品群が示唆している事は「昭和的価値観をいまだに引きずったような【破天荒】だ【鬼才】と言うレッテルでラベル付された監督がいなくても傑作は成立し得る」と言う歴然とした事実である。もはや昭和的価値観を肯定するフェイズはハッキリ言って終わった、と断定して良いだろう。*9前記事の『猫は逃げた』のレビューでも書いたが、作り手が誠実に作ってるのかヨコシマな下心ありきで作ってるのかってのは透けて見えるものだ。コアな映画ファンになると予告編を見ただけでその空気感に触れることができその作品が当たりかハズレぐらいかは察知できるのだ。映画ファンを舐めてはいけない*10

さて、本記事冒頭で Coco Chanelの名言に触れているが、それもその筈。繰り返しになるが本作には主人公東條アヤカが彼女の生き方を大肯定しているシーンがあるから。そもそもChanelとはNO.5をはじめとするオリジナルのファッションブランドを通じ、シンプルかつ洗練された服飾品を身につけることで女性たちがもっと動きやすく、働きやすく、そして輝けるように貢献をもたらすように彼女自身も【既成概念を破壊した】のだ本作の基盤になっているのはいわばChanelもまた、ALTERNATIVEな存在なのだろう

 そんな彼女の残した、本記事の趣旨にふさわしい更にもう一つの名言をあげることで、この13628字に及ぶ本ブログ記事のレビューを締めくくろうと思う。


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The most courageous act is still to think for yourself.

Aloud.

 

今もなお、最も勇気のいる行動とは、自分の頭で考え続けること。

そしてそれを声に出すこと。 

-Coco Chanel(ココ・シャネル 1883ー1971)

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*11

 

 

 

 

*1:ここ最近、個人的に最もパンク志向のBeyondを感じたのは1月か2月のバーペガ配信でエアギターなのに流血した人と、楽器使わずに脚立と声だけでパフォーマンスした人ぐらいかもしれないな。

*2:プライマル・スクリームのオフィシャルサイトをあげておく。

www.sonymusic.co.jp

*3:書いててよくわからなくなってきたぞw、それだけ本作は説明的ではなく体感的効果の方が大きいと言うこと。

*4:本MVに関して以下の『GCM動画日記Case3』の記事でも触れている。この話も『女同士の話』ってのがテーマでもあるしどこか通ずる面があるのかも。

nenometal.hatenablog.com

*5:Avicciのオフィシャルサイトあげておく。

www.universal-music.co.jp

*6:オタ役の俳優さんも凄かったな。

*7:あとあとついでに気づいたんだけどあの3人がアイドルが歌う場面で下に歌詞が出てくるんだけどcollectionっていう綴りがcolectionとタイポになってたのは意図的だったのかな?っていう細かい疑問も備忘録としてここに記しておく。

*8:DVDが5月にリリースされるらしいけど、まあでも本作品はスクリーン体感がベストだと思う。購入前にまずスクリーン必須です!

Cosmetic DNA [DVD]

*9:

*10:ついつい横道剃れたついでにまた逸らすが、本レビューでは音楽作品との類似性に触れたんだけどなぜ、若いベテランか関わらず音楽家の作品にはそういう怒りや、アングスト(苦悩)のこもった作品って出てこないんだろうと言うのは兼ねてからの疑問でもある。それはいまだにマーベル、DCなどの海外のアメコミでもNirvanaの楽曲が重宝されるハリウッドでも同じ事である。アコースティックにも関わらず、壮絶極まりないシャウトを経ての4:50の表情にいつもハッとさせられる。まるで何かを予見してたかのような...

Nirvana -Where Did You Sleep Last Night (Live On MTV Unplugged Unedited)


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*11:名言の引用はこちらのサイトから

meigen-ijin.com