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「狂気」と「正気」と「アングスト」の狭間で〜映画「#みぽりん」爆裂レビュー

TABLE OF CONTENTS

1日目; 狂気とトラウマの狭間で

2日目;『スペシャルアクターズ』との相補分布性

3日目; 衝撃のラストシーンを検証する

APPENDIX1;上田慎一郎監督登壇イベントにて

APPENDIX2;過去記事含む関連レビュー集

 

1日目; 狂気とトラウマの狭間で

2021年10/31日のハロウィンの夜、初のニコニコ生放送無料配信でも300人もの視聴者と共に盛り上がった松本大樹監督の映画『みぽりん』についての記事である。

*1

その気になるあらすじは以下の通り。 

地下アイドル「Oh!それミーオ!」のセンター神田優花は、人気投票1位を獲得し、ソロデビューする事に。 しかし、大の音痴である優花の歌声にプロデューサーの秋山とマネージャーの相川は頭を悩ませていた。 そんな中、同じグループのメンバー里奈のツテで、優花はボイストレーナー・みほのボイトレ合宿に六甲山の山荘へ参加する事に。 初日に契約書にサインをさせられると、翌日からいよいよ恐怖のボイスレッスンが始まる。優花に「みぽりん」と呼ばせ、狂った高笑いや怒り狂った猫の真似をするように自らも演じて見せつつそれらを強要するみほ、いやみぽりんの異常性は次第に狂気の狂気を更新していく。 

 


映画『みぽりん』予告編

 

.....と言うものだが、このあらすじを見ると一見『みぽりん』はどこかサブカル界隈の映画マニアにしか分からない作品のような印象があるかもしれない。だが本作をよくよくみてみると、昨今のアイドルを取り巻く話題、それこそ昨年のNGTを取り巻く問題や、ここ最近やたら現役アイドルが結婚したり、先輩格的なアイドルが腕を組みつつ「最近私たちの運営陣はどうかしてしてますね。」と偉そうにコメントしてる様子であったりとか、神田優花に男(夫)がいたとされる場面で「丸坊主にでもなるか、いやでもそんなことしても許されるわけないけどな。」のセリフなど、あの何がどうなっているのかわからない実際に起こったアイドル界隈に蔓延る内情をもうこれでもかとばかりにぶちまけてまくっているのだ。

 そして、そのまるでバズーカ砲から放たれる銃弾のようなみぽりんが放つほとんど、いや全てのセリフは、はっきり言うと音痴なアイドルでありながら人気投票でセンターに立ってしまう神田優花へのダメ出し一辺倒なんだけど、それと同時に、上記で触れたようにここ最近の運営だ、物販に立つ事への不満だ、キャラクターで人気が出ただの、我々オーディエンスからの立場を度外視した、いわゆる業界内部からの視点ともなっていて、夢も希望も高嶺の花もないここ最近の全アイドル達のいわゆる心臓部を射抜く役割をも担っているのである。*2

 ただここで誤解してはならないのが、これがリアリティを基盤としつつも決してそこにシリアスさや重厚なトーンはほぼなく、どこかギリギリのエンターテイメントとして成立しているある種のバランス感がある事に注意したい。これは一重に神田優花演じる津田春香のどこか愛嬌のあるルックスや絶妙にシリアスに走りすぎない演技や、時に小気味よく挿入されるクラシックを主体とした音楽がそうした根底に潜むシリアスさを緩和する効果をもたらし、全体としてコメディーとしての色合いを残していると言って良い。別にこれは、優花や音楽など演出効果の話だけではない。このような要素は垣尾麻美演じる狂気のボイストレーナーみぽりんにしたって同じ事だ。確かに彼女の「ギャハハハハハハハハハ

ハ!!!!!!!!」などと高笑いする様や、あのサカりがついたような狂った猫のものマネや、銃を構える様にはある種の狂気を感じさせるのだが、その狂気のの核にまでは及ばぬ一歩手前感があると言うか、「この人は優花を殺す事はないだろう。」と言うどこか安心感にも似た哀愁が見出せるのだ。*3

 それを最も象徴していたのがクラシックのカノンを奏でるオルゴールを目の前に「だいぶ冷えてきたわね。テンション下がるわ。」と言いつながらみぽりんがぼうっと佇むシーンがある。このシーンは何か意識の糸が途切れてたようにこれまでの狂気のみぽりんの姿は一切なく、優花ですら「どうしたんですか?」とツッコミを入れるぐらいだから本編中で最も気持ちを休められる、特殊なシーンかもしれない。ちなみにあの時BGMで鳴っているオルゴール、ROKKO森の音ミュージアム館で購入したものらしい。*4

 そこで彼女は、優花に対して自らのライフストーリーを語り出すのだ。自分をアイドルにさせようとスパルタ教育していた母のことを。まさに自分をアイドルにさせようとレッスンだ、歌だ、ダンスだ、もはやトラウマ急に追い込もうとするみぽりんのスパルタ教育ばりに彼女をアイドル足らしめようとしたまさに今現在優花を追い詰めて精神崩壊のギリギリ一歩手前にまで追い込もうとするみぽりんの姿さながらの彼女の母の姿を語り始める。その時この場面を見た時ふと思い立った事があった。

親とのトラウマ....!?

*5

そう、トラウマといえば、言うまでもなくあの映画のワンシーンがふわっと浮かんでくるではないか。

 

2日目;『スペシャルアクターズ』との相補分布性

その映画とは....あの2019年公開の上田慎一郎監督スペシャルアクターズ』の事である。本作の主人公大澤数人もある種トラウマを抱えている。*6

ここでは『みぽりん』とは逆に「アイドルになれるわよ!」ではなくて「お前は役者になんかなれない!」とまさに彼を罵倒する父の姿が幾度もフラッシュバックする事によって「大人の男の人に詰め寄られると気絶してしまう。」と言う病を抱えているのだ。

この奇妙な一致はこれだけではない。

スペシャルアクターズ』でガゼウスポッド崩壊のシーンを経てその時ちょうど数人が彼自身のトラウマになっている父親の姿がハッキリと見えた時点と時を同じくして多磨璃が思わず信者の前で「パパー!!!」叫んでしまうくだりも思い出してほしい。もうこの場面以後、全てが崩壊し、全ての信者が洗脳から解き放たれ、現実に目覚める瞬間があろう。

この時信者にとってもはや彼が教祖様でなくなった瞬間であり、数人が1人の大人(役者)としても目覚めた瞬間でもある。思えば、“ヒーロー”としての力を身に付けた数人と神としてのメッキが剥がれてしまった多磨璃教祖の姿が顕になってしまうあのシーンはあの作品のハイライトとでも言って良い。

そのシーンと否が応でもオーバーラップするシーンが『みぽりん』での最後の最後でみぽりんが妹でもあり「Oh!それミーオ!」のメンバーである里奈に「里奈、本物のアイドルって全然わかっていない。いや、みんな分かっていない。アイドルは、そうじゃないの。アイドルはこの世で一番美しいもの。この世で一番神聖なもの」と言う今は亡くなってしまったかのような古き良きアイドル像に根ざしたこの映画を象徴するかのような最高のセリフを放ちつつ、刀を取り出し、「会いたくても、会いに行けない。それが本当のアイドルよ。」と言った後切腹し、某が背後から介錯するシーンである。

 前者は【目覚める】事、後者は【死】と言う逆のベクトルを指向していると言う違いはあれど、どちらもこれまでのムスビル教とみぽりんにとってのアイドル理想郷なる世界が崩壊し、現実へと我々の視線が向けられるのが分かる意味ですごく共通しているし、それらの世界崩壊執行スイッチを押したのがムスビル教教祖の多磨璃と、みぽりんにとってのアイドル理想像をサポートする生きた亡霊、某と言う本編中全くセリフ然というセリフが全くないこの二人だというこの共通点も非常に興味深い

さらにこの両作品を相補分布的なもの足らしめているのが偶然にもそれらタイトルである。いずれも親子関係でのトラウマを引きずる共通点はありつつも、『みぽりん』は頭文字Mから始まるタイトルとは逆に、アイドル優花をとことんまで追い詰めていくS気質のみぽりんが主役であり、スペシャルアクターズ』は【サディスティック】のSから始まるタイトルにも関わらず【マゾヒスティック】のM気質であろう数人が主役となっているというこのまさに相補分布性的偶然が交差するのだ。

 このようにこの両作品って恐ろしく相通ずる物がありつつ、全ては正反対の方向に向かっていると言う見方も可能で、逆に正反対の方向に向かっているようでどこか相通ずる点があるという見方をもまた可能である。この2作品が今現在池袋シネマ・ロサに看板映画として梯子観覧できるように集結しているというのはある意味奇跡だとも位置付けるべきだと思う。 

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*ここからが衝撃の結末に触れたいわばネタバレゾーン(観た人のみ読んでください笑)

 

3日目;衝撃のラストシーンを検証する

そしてここで、『みぽりん』と言えば多くの人が触れるであろう「ラスト10分論」に触れたい。本記事はネタバレ前提とした記事だからぶちまけるが、確かに物凄い事になっている。

この10分のカオス、に至るプロセスを説明すると、

「最後もはや拉致監禁状態になった優花の行方を追って六甲山の山荘へ乗り込んだ秋山プロデューサー・相川マネージャー、優花押しのファン(加藤、通称カトパン)らは彼女を救う事に失敗する。結局全員手足を縛られ監禁状態になってしまう。銃を構えるみぽりん、絶体絶命。そこでプロデューサーはみぽりんが優花の代わりにソロデビューするように提案する。まんざらでもないみぽりん 。そこでそのソロデビュー曲のミュージックビデオを撮影する」

そして件の問題のシーンはここからである。

 

更にこのカオスシーンを整理すると....

 

❶MV撮影で寄りがダメだ、右斜めから撮れだの色々と注文し出すみぽりん

❷撮影中ぶち切れた優花がミポリンの愛猫の写真を焚き火に打ち込む。

❸当然みぽりんもぶち切れ。二人はもみくちゃの流血まみれの争いとなる。

カトパンが応援を頼まれるもサイリウムを振り出し、ある種応援に走る(笑)

❺相川と秋山は一度男女の関係を持ってたからか、突如相川が出産。なんと巨大幼虫を生む。

❻その巨大幼虫の中にある刀で切腹を図る

 

 

 ......ともしも映画を見ていない人がこれを見てしまったらなんのこっちゃかわからない、いや、本作を二度観た私ですらいまだに判断がつかない側面があるこれらのシーンである。

ハッキリ言うとここから繰り広げられるシーンは夢見ているのか、現実で起こっているのかその設定の軸が大きく曖昧になっておりどうなっているのか2回みてもまだ曖昧であるってのが正直な所(笑)。でもなんとなく思うに、この辺りの現実なのか非現実なのかの曖昧な世界の件って『ブラック・スワン』のクライマックスシーンを想起させるのだがいかがだろうか。あれもお母ちゃん結構スパルタだったしね。*7

  でも思うに、大多数のみぽりん評と違うんだろうが、2回目観た時に、個人的にこの「ラスト10分」をここ最近のアイドルを取り巻く現状をシニカルかつ物悲しくダイジェスト化した風刺絵だと捉えて見るとある種の整合性に満ちて感じたのも事実である。

これまでみたあの10分の景色が以下のようにも読み取れやしないか?

❶MV撮影で寄りがダメだ、右斜めから撮れだの色々と注文し出すみぽりん

→ここ最近の自分の実力はさておいて、運営に注文をつけいかに口パクやルックスの表面面やキャラクターで自分を可愛く見せようとしがちなアイドル事情を示唆

 

❷撮影中ぶち切れた優花がミポリンの愛猫の写真を焚き火に打ち込む。

→自分のスキャンダルがバレたときに内部告発したり、時に突如該当アイドルが丸坊主になったりと意外な形でレジスタンスに走りがちな最近のアイドル事情を示唆

 

❸当然みぽりんもぶち切れ。二人はもみくちゃの流血まみれの争いとなる。

内部告発後、原告サイドも被告サイドも自己保安の為に必死になり、事実をもみ消したりありもしない事実をでっちあげたり更に泥沼化していくアイドル事情を示唆

 

カトパンが応援を頼まれるもサイリウムを振り出し、ある種応援に走る(笑)

→スキャンダルや内部告発後、泥沼化していくアイドル事情に対して「〇〇ちゃんに限っては違う。」とひたすらサイリウム攻勢を続けなければならないファンの悲しさを示唆

 

❺相川と秋山は一度男女の関係を持ってたからか、突如相川が出産。なんと巨大幼虫を生む。

→❶−❹のプロセスを経てこれまでみぽりんが理想として掲げてきたアイドル像の象徴がこの巨大幼虫である。ここからまさに古くから崇められてきたアイドルのような、美しき蝶のように舞っていくのか、様々な可能性を秘めている幼虫であるが、その後全ての人々が撤収し、木下里奈が現れ、アイドルと言う名の栄冠を奪回するよう決心する場面でのみぽりんは絶望し、巨大幼虫は全てのものをバッサリと断罪する刀へと変貌する。そして.... 

 

❻その巨大幼虫の中にある刀で切腹を図る

もはやこの場面は全てのみぽりん がアイドルに対して掲げてきた理想郷が完全に崩壊したことへの象徴である。アイドルは終わるのだ。いやもうとっくに終わっているのかもしれない。いっそそんな曖昧な状況ならみぽりん自身の青春の象徴でもあったアイドルを終わらせようではないか、と決心するのだ。青春ってのは終わるもんじゃない、終わらせるもんなんだって誰かも言ってたし。

「会いたくても、会いに行けない。それが本当のアイドルよ。」という言葉とともに。

 

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Appendix1;上田慎一郎監督登壇イベントにて

その『みぽりん』1st レッスン後、『カメラを止めるな』&『スペシャルアクターズ』感謝DAY上田慎一郎監督登壇が開催された。この時は初『みぽりん』だったので正直本記事のようなブログをまとめるほど整理できてはいなく、また2回目観たとしてもどこに照準を定めるべきかなど個人的に非常に曖昧だったので、このトークでの上田監督による「みぽりん評」はもの凄く分かり易くて見所に落とし前をつけてくれるものだったと思う。

一応ほぼフルで撮ってるのでどうぞご覧あれ!


『みぽりん』12/27(金) 『カメラを止めるな』&『スペシャルアクターズ』感謝DAY登壇者:上田慎一郎監督、垣尾麻美、津田晴香、合田温子、井上裕基、近藤知史、篁怜、片山大輔、松本大樹監督

 

もうこの日のトークは見て頂いたら早いのだがあのカオスの10分を「連載終了が決まった漫画の最終回」とか言う例えとか、爆笑を誘う上にものの見事に分かりやすいですよね。或いは途中寝落ちしてしまったかと思ってたとか言うコメントもホントこれ『みぽりん』だからこそ洒落として成立する最大の褒め言葉だと思う(笑)。

 このトークの中でもとにかく上田氏によるみぽりん評で最も印象に残ったのは【本作品における初期衝動性】である。ここ最近の映画では、兎にも角にも「伏線回収」と言う言葉に囚われてしまう傾向があるのだが、それらの概念を全て取っ払った所にも映画の良さがあるのではないかと。ある意味ロックバンドのコンセプト・アルバムのような映画ではなく、パンク・ロック的な作品があっても良いのではないかと言うと良い例えなのかもしれない。

まぁでもこの作品にもある種のコンセプチュアルなまでに整合性を見出した事がきっかけで本記事を書いている自分がいるわけなんですけどね(笑)

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付記;

注釈でも書いたが、東京3拍4日の旅行から実家福岡に帰ってぶっ倒れてほとんどTwitterにも向き合いたくない珍しい日々を過ごし、外出も全くしてなかったのだがようやく落ち着いて頂いたサインなど整理してたがほんと皆様心のこもったサインやメッセージも添えてくれてた事に気付く。

 

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スペシャルアクターズ』『みぽりん』にしろこんな素晴らしい映画が同時に上映される映画館がインディーズ映画シーンの拠点であるシネマ・ロサってのも素晴らしいではないか! 


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APPENDIX2 過去記事含む関連レビュー集

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*1:オフィシャルはこちら!

crocofilm-miporin.com

*2:だから全アイドル必見だと思うんだよね、この映画は。松本監督もアイドル系の人々に見にきて欲しいとおっしゃってたし。

*3:猫の物真似で優花にもどこかみぽりん気質っていうか要素があると思うんだがどうだろうね。

*4:昨日のニコ生配信でも仕切りに高いと言うコメントがったがいくらぐらいなんだろうね♪。個人的にカノンのメロディー好きだから欲しかったりするんよね。

loco.yahoo.co.jp

*5:ちなみにこの時BGMの「カノン」が逆回転再生されてるの凄いツボなんですが。

*6:オフィシャルサイトはこちら!

special-actors.jp

*7:こうして観てみると予告編の畳み掛け方がすごく『みぽりん』と『ブラックスワン』とでシンクロする気がするのは気のせいか?


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