0.令和に入ってからの邦画って凄くないですか?
とにもかくにも今年は夏辺りから、映画の当たり年である。
7月末の兄弟や家族の心のつながりを描いた『こはく』、翌月に公開された一人の中年女性の復讐サイコサスペンス『よこがお 』、今現在の所、今年最大のメガヒットと言っても良いであろう*1『天気の子』ときて、去年のメガヒット『カメラを止めろ!』による上田慎一郎監督共作、『イソップの思うツボ』、に続いて、満を辞してという形で10/18に公開された『スペシャルアクターズ』である。
で、さらに秋以降は『わたしは光をにぎっている』が待ってるし、更に年明けには岩井俊二監督の最新作の『ラストレター』が控えている。
一体どうなってんだよこの邦画業界よ!!
でもこれらの作品って一見バラバラ感あるんだけど実は共通点があって程度の差こそあれど多少大衆の最大公約数の「面白い」に突っぱねた感じがあって「分かる人にわかれば良い。」というクリエイターとしてのある程度のこだわりやプライドが根底にある気がする。言って見れば、映画を【泣ける】【笑える】【オチがある】もっと酷い事になれば【ジャ○ーズの誰々が出ている】などの物差しでしか映画を享受できない脳みそスッカラカンな層に一切目もくれてないある種の「美意識」が根底に見受けられるんだけど。*2
まぁもっとも『天気の子』は大大ヒットしただけあって不幸にもそういう層の者達の目に触れて「えっどういうことだったの?オチは何??」とか言ってしまう所謂『能天気』な子らを大量発生させてしまったようだけど...
何はともあれ、今回のテーマは『カメラを止めるな!』を監督した上田慎一郎長編第二作『スペシャルアクターズ』である。
話の内容はざっと
「ある旅館の女将を洗脳して旅館全体をサティアンのようにして乗っ取ろうとする詐欺宗教団体を、【スペシャルアクターズ】という依頼請負いの劇団員達が阻止するという設定が土台。上田監督特有の随所に散りばめられたギミックふんだんに生かしたコメディー」といったものだがストーリー展開上一癖も二癖もあるものとなっている。
と、ネタバレ要素なしで綴ってみたものの見て観ないことにはなかなか伝わりづらいだろうから予告編どぞ。
映画『スペシャルアクターズ』予告 10月18日(金)全国公開
ちなみに1シャワー目の感想がこちらのツイート!*3
Tweet1
旅館を乗っ取ろうとする宗教団体を劇団員が阻止するというメタ設定にツボり、ムッスーやシャワー、物販など随所に散りばめられたギミック達で何度笑死したことかw
— ネノメタル⚡️New Analysis of an Account of Anatomy’s (@AnatomyOfNMT) October 18, 2019
これはもはや映画ではない。スクリーンの枠を超え、鑑賞後本当に出演者全員が #スペシャルアクターズ へと変身するドキュメントである! pic.twitter.com/xB3rIk5aDT
Tweet2
怒濤の展開!
— ネノメタル⚡️New Analysis of an Account of Anatomy’s (@AnatomyOfNMT) October 19, 2019
抱腹絶倒のギミック!
挿入クレジットの鮮烈!
前作のゾンビ達の呻き声の轟音と撒き散らす血飛沫の海を超え、よくぞここまでのエンターテインメントとエンスージアズムに満ちた作品を生み出した #上田慎一郎 監督のタフさよ!
数日前に会った俳優達は#スペシャルアクターズ に変身した! pic.twitter.com/W5GgAiQuuz
なんといつもながら、いや、いつも以上に熱くもクドイ感想ではないか!*4 今思えばこの感想には、多少『カメラを止めるな!』見た人は分かるでしょ?みたいな、そっちの層にも引っかかれよ的なこっち側のあざとさがというか、正直『カメ止め』と熱狂度はなんら変わらないと思い込もうとしてるのもあるんだけど、2回目になるとちょっと待てよ、『カメラを止めるな!』とは質として違うよねという感想になっている。
(あとどうでも良いけどあんだけわんさかいて上田監督作品は最高だなんかぬかしてた『カメ止め芸人』達は一体どこにったのだろうかw 、今や誰一人としてこの作品にコミットしてるような人いないよね。)
そして2シャワー目の感想はコチラ↓
Tweet3
今まで再鑑賞ってもう一度記憶を辿るタイムリープ体験だったのに対し、 #スペシャルアクターズ は全シーン・全セリフが全く別の意味合いを持って響いてくるというかつてない映画体験を届けてくれた。
— ネノメタル⚡️New Analysis of an Account of Anatomy’s (@AnatomyOfNMT) October 24, 2019
「二度始まる」のが前作だとしたらこれは「二度目からまた始まる」作品だ。#上田慎一郎 恐るべし! https://t.co/5flX8Htzlb pic.twitter.com/dNh4wY8YVL
そう、まさにTweet3から計り知れることは2回目で「カメ止め」との決定的な違いを感じていたということ。あの「カメ止め」が約2時間の枠組みの中で、キッチリと3部構成となっていて、きちんと前半でばらまいた伏線を中間で説明をして、後半で全て滞りなく回収するので観たものは非常にスッキリとした気分で劇場を出ることができるのに対して「スペアク」は観るものにラストのラストでハッと気付かせた形でエンドロールを迎える様な構成なので、スッキリというよりは何かとてつもなくどっしりとしたわだかまりと言えば語弊があるな、そうそう、ライブで言えば最後の曲のギターフィードバックの残響音にも似た余韻を残しつつ終わるのだ。
だから、当然再鑑賞となってくるとその動機も違ってくる。「カメ止め」は突拍子もない動きや、セリフや「ポン!!!」などの必殺技を使っていかに美しくかつ奇跡的に伏線が回収されるかを堪能できる、いわば最初から結果がわかっててでもその答え合わせの妙を楽しむ様に作られていて、あのワクワク感は、少年時代に見たライダーだレンジャーなどのヒーローものか、あとは余り興味は無いが、プロレスの鑑賞の仕方に近いのかな。
それに対して、「スペアク」の2シャワー目のテンションは極めてクールだ。いや、表面上はクールだけど心の中は非常に熱いタコ焼きの様な、あとは、まるで推理小説の謎解きか、フィンチャー監督の傑作『ゴーン・ガール』の後半の怒涛のエイミーの独白部分でも聞いている様だった。*5
だからこの作品とあの作品とを比べることに余り意味がない、というかそもそもの土俵が違う気がする。そもそも『カメ止め』は無名の俳優を低予算でここまでのカタルシス映画って触れ込みだったけど今回のこれはそこまで無名観はなく、大多数の無名役者の中でも、ある程度キャリアのある役者を散りばめている印象がある。話が脱線するが、その証拠として、個人的に一番テンション高まったのは、ムスビル幹部役の櫻井麻七さんがあの私的フェイバリットドラマ『孤独のグルメ』での中野区の地鶏専門店にて五郎さんの後ろにいた2人組のOL客役ってのがわかった時だ。
他にも『誰も知らない』に出てた北浦愛さんもいたし、他にもそれこそ夏に『よこがお』でも好演した小川美祐さんもいるし、あと他にも舞台等で見たあの人とかいろいろな情報をちらほら聞くし、結構キャリアある人たちもしっかりと存在していてこの映画の屋台骨を支えていると思うんだな。
だから『カメ止め』と同一視した状況やテンションで見ることってのは逆に危険なのではないか、別の作品なのではないかと断言しても良い。
3.『スペシャルアクターズ』〜リアリティとの狭間で
で、何が違うかといえばこの話は単なるコメディではないと言うこと。何せコメディというフォーマットにしては妙に生々しい描写がいくつか垣間見えるところである。
例えば、これ。
ほんとにこの場面は個人的に壮絶トラウマ級なので再鑑賞する際にはぜひ注目して頂きたい。
Tweet4
その直後、ムスビル幹部河田(#川口貴弘)と七海(#櫻井麻七)が笑いを堪え合うシーンがあるのだが、その様子が余りにも生々しすぎて思わず一瞬目を逸らしてしまった。
— ネノメタル⚡️New Analysis of an Account of Anatomy’s (@AnatomyOfNMT) October 25, 2019
そう、#スペシャルアクターズ はコメディの体をして不意にこういうリアリティを突きつけてくるから手に負えない。#ムスビルの思うツボ pic.twitter.com/x6yfB7DonV
これを解説すればムスビルに完全に洗脳されたこの主婦麻奈(南久松真奈)さんが旅館の一室を借りて集会的な事をやっていて、皆の前で「この宗教に入ったおかげで布団からエステのポイントカードが運良く見つかったんです!!!」と叫び倒し、それを聞いていたその宗教幹部の二人が、クスクスと笑いを堪える場面だ。しかもこれって前の日にその幹部たちは「あのババア信者はころっと騙せる。」的なことを陰で言っていたからこそ尚更引き立つ描写だったのである。
ほんとこのポイントカードアクトはもう震撼だしもはや人間の狂気と情念とが綯い混ぜになった何かだと思う。あと個人的に男女幹部同士の関係性に関しても1回目から「おやっ?」と思ってたのでその辺のリアリティも相まってこのシーンを兼けねなくディープなものにしているんだと思う。
だが、上述したリアリティをコメディー領域へと戻してくれる代表格がこの二人の登場人物である。
Tweet5
そのリアリティからコメディモードへとリセットしてくれるのが #スペシャルアクターズ 社長富士たくや(#富士松卓也)。
— ネノメタル⚡️New Analysis of an Account of Anatomy’s (@AnatomyOfNMT) October 26, 2019
新海アニメでも好きそうなルックスにポップなハイトーンヴォイスのコンビネーションの絶妙な安定感。
舞台だったら「サンキュー!」の時大拍手起こってたよ。#スペアクの思うツボ pic.twitter.com/WVnoE5DNL1
この富士ボスに関していえばあのフラワーカンパニーズもビックリのあの素っ頓狂なハイトーンボイスに驚いてしまった。しかも全体の登場人物の中では「社長」という最も偉い立場にいる人なのにどこかアニメ好きそうなルックスにあの声というギャップがこの映画を一気にコメディへと引き戻してくれる。ちなみに個人的に彼は少し新海誠監督に似ているんじゃないかと思うんですけどw
そしてムスビル教祖大和田多磨瑠(淡梨)に関しても同様のことが言える。
Tweet6
#スペシャルアクターズ は時折リアリティが絶妙なバランスで散りばめられてる訳だが、それでも全体的にコメディー寄りに吹っ切れてる要因の一つは紛れもなく大和田多磨瑠(#淡梨)教祖の存在がデカい。
— ネノメタル⚡️New Analysis of an Account of Anatomy’s (@AnatomyOfNMT) October 27, 2019
まるで古谷実の漫画から飛び出してきたようなあの佇まいは観る者を驚愕させる!#ムスビルの思うツボ pic.twitter.com/iDC340VE1N
とにかくこの人はルックスと佇まいの勝利である。もうこの人が出てくるだけでガラッと空気はコメディゾーンへと一変するのが分かる。あと喋らないという設定もかなりの相乗効果を増していると思う。ちなみにこのツイートした時に結構なRTがあったのでおそらく古谷実漫画キャラへの類似性ってあながち間違ってないのか。あと上田慎一郎作品って特に今回の作品に限らず笑いのセンスとか古谷漫画の影響を受けてる様な気がするのだがその辺どうなんだろうか?
4.まとめ
と、ここまで書いて、この映画の面白さを伝えるにはこれだけでは不十分に違いない。まだまだ魅力ある登場人物達たくさんいるし、気になった場面もまだまだあるしで、それはもう一度観ることで、第二弾の記事でまたまたここに書いていこうと思う。
とかく上田慎一郎監督作品って前作「カメ止め」効果もあってネタだ、展開だとにかくギミック面に焦点を絞られがちである。確かにこう言う点は彼らの魅力であり、必殺技であるんだけど、こういう風にまるで舞台演劇の作品の様に演技の妙を楽しむ事にも注目すべきではないかと思っている。
まぁ逆に言えばこれは結末がバレたとしても何ら支障のない極めてタフな作品だと思う。もっと言うと「一つの作品の中で二度始まる」のが『カメラを止めるな!』だとしたら本『スペシャルアクターズ』「二度目からもまたはじまる」作品である。
ということで明日11/2(土)に、3rdシャワーの『スペアク』を鑑賞したい、更にこの映画の面白さを突き詰めたい。
あ、ちなみにこんな感じでネノメタル お得意のツイート収集やっております↓
*1:この様に記述しておく。スペアクが怒涛の巻き返しになるか分からんからね
*2:だから「カメ止め」ってのはホント奇跡な作品だったんだな、あれだけ緻密でサブカル的なのにどの層からも好かれてるって言う意味でも。
*3:ちなみにこの映画では見た回数を「シャワー」と表す。まぁ見たらどう言うことか分かるよ。
*4:こんな熱い感想は去年の夏のハルカトミユキバンドツアーで某メンバーが某曲にてそばにあったマネキンを切り裂いてぐちゃぐちゃにして、マイクスタンド蹴倒してよろめいて拡声器で叫び倒している一方でもう一人の某メンバーが客席へとダイブしていった梅田TRADでのあの伝説のライブアクト以来である。
*5:この作品を観て「スペアク」は「Sting」に対するオマージュだとか、いろんな作品の名がそれこそ鬼の首を取ったように散見されるが余り意味がないと思う。まぁ世の中に星の数ほどある映画作品、そういうオチの作品って探せばいくらでも色々あるだろう。ただ、70年代のThe Whoをフィーチャリングした『Tommy』というロックオペラ作品は見ておいた方が良いと思う。元ネタと言うよりは表裏一体てか相補分布な作品。【予め何かを喪失した主人公が、宗教などのドグマチールに押し付けられ、そこから立ち向かう姿】というストーリーとまんま符号するんだけど。これは是非!「スペアク」の信者はハッとする場面多いので。