Ⅰ.11回の劇場鑑賞の果てに
2020年、全宇宙で唯一立ち上がったこのヒーローに敬意を表してこう言おう。
柔軟性と強靭性とを兼ね備えたヒーローが教えてくれた「真実の定義」にここまで打ち震え号泣する程に感動させられようとは思わなかった。具体的に言えばIMAXで5回、dolbyで4回、普通のスクリーンで2 回と合計11回劇場で観たぐらいで、公開終了して半年以上経った今も尚いまだに飽きてないのだ。
Brief Story of『Wonder Woman 1984』
スミソニアン博物館に勤める、考古学者のダイアナ(ガル・ガドット)には、最強の戦士「ワンダーウーマン」というもう一つの顔があった。1984年、禁断の力を入手した実業家・マックス(ペドロ・パスカル)のたくらみにより、世界のバランスがたちまち崩れ、人類は滅亡の危機に陥る。人並み外れたスーパーパワーの持ち主であるワンダーウーマンは、マックスが作り上げた謎の敵チーターに一人で立ち向かう。
本作はタイトルが示すとおりにG・オーウェルのディストピアSF小説『1984』がモチーフになっているのだろう。確かにあの作品におけるディストピアをあたかも予見したかの様なネオ・ディストピア=コロナ禍に苦しむこの世界だからこそ共感と感情移入を可能にし、全人類への心の処方箋と呼称すべきステイタスを有する傑作だとも言えるのかもしれない。
或いはそのオーウェルの小説におけるディストピアも意識しているであろう、この1984以降も今なおMacやiPad, iPhone, Apple watchなどを中心としたアップル製品で全世界にある種の革命をもたらしたSteve Jobsによるアップル社の創世記のCM『1984』も多大な影響を与えてるのではと思ったりもする。このCM内でのヒトラーに類した独裁者がスクリーン越しに無表情の男達に洗脳するが如く指示する様子は、まるで本作でまさに全世界を思うがままにしようとするマックス・ロードと、そしてこのCM内でその独裁者に立ち向かう女性アスリートが、本作のクライマックスで轟音と豪風に立ち向かいながらも対峙するこのワンダーウーマンことダイアナ・プリンスの姿とが完全にオーバーラップしてしまうからである。
それでもこの世界は美しい
ダイアナも、そしてかつての恋人であり今作で奇跡の復活を果たしたスティーブ・トレバーもこう言った。
この言葉は偶然にしてまるでディストピアと化したコロナ禍によるこの世界の様相を予見し、更にそれでも前を見続ける事の大切さを教えてくれるかのように響いてくるのだ。
この時の場面とここで全世界の欲望に埋もれる人々に放たれるWonder Womanの通称「ありのままでも美しいスピーチ」があまりにも最高すぎるので全て羅列しよう。
[Wonder Woman]
I never wanted anything more.
But he's gone..., and that's the truth
And everything has a price, one I'm not willing to pay.
Not anymore.
the world is a beautiful place, just as it was...
And you can not have it all.
You can only have the truth.
And the truth is enough, the truth is beautiful
So look at this world...and look at what your wish is costing it
You must be the hero.
Only you can save the day.
Renounce your wish if you want to save this world.
訳
[ワンダーウーマン]
これ以上何も欲しくない。
しかし、彼はこの世にはいない...そしてそれは真実です
そして、すべてに価格があり、私が支払う気がないものです。
もう今は違う。
まるで世界は美しい場所です...
そして、あなたは全てのものを手に入れることはできないの。
あなたには真実しかない。
そして真実はだけで十分、美しい。
だから、この世界を見てください...そしてあなたの願いがそれを犠牲にしていることに気づいてください
あなたこそがヒーローでなければなりません。
あなただけがその日を救うことができます。
この世界を救いたいのなら、あなたの願いを捨ててください。
[Max Lord]
Why would I...!!
when it's finally my turn?
The world belongs to me!
You can't stop me. No one can!
訳
[マックスロード]
なんで…!!いよいよ私が世界を制覇する番になったのに?
世界は私のものだ!
あなたは私を止めることはできん!!!!誰もできん!
[Wonder Woman]
I wasn't talking to you
I wasn talking to everyone else.
because you're not the only one who has suffered.
Who want more.
Who wants them back.
Who doesn't want to be afraid anymore.
Or alone.
Or frightened.
Or powerless.
'Cause you're not the only one who imagined a world
where everything was different.
A world where thyr were loved and seen, and appreciated.
Finally.
But what is it costing you?
Do you see the truth?
[ワンダーウーマン]
私はあなたには話していない。私が話してるのは全世界の皆に伝えている。
苦しんでいるのはあなただけではないから。
もっと欲しい。誰がそれらを取り戻したいのか。
もう恐れたくない。
みんな孤独で。またはおびえている。
みんな無力。
何もかもが真新しい、そんな未知の世界を想像したのはあなただけではないから。
あなたが愛され、見いだされ、感謝された世界。
ついに。しかし、それにどれぐらいのコストがかかりますか?
あなたには真実が見える?
Do you see the truth?
(あなたには真実が見える?)その直後マックスは堰を切ったように「Renounce My Wish!!!!(願いを取り下げる)」と言い放ち、核爆弾に逃げ惑う一人息子アレスタを探しにいくのだがこれがアメコミヒーロー者のハイライトだとは誰が予想できたであろうか?派手に敵と闘うアクションシーンなど一瞬たりもなくただ涙を流し時に、微笑み、世界に向き合うことの意味とそれを否定することの残酷さをひたすらぶちまけ啓蒙するワンダーウーマン。この、まさに武器を持たぬ戦闘シーンにひたすら感動する。幼き日、スタジアムでレースを制することのできなかった少女・ダイアナに母は「今はただ真実に向き合いなさい。今はまだ機が熟していないのよ、いずれ分かる時が来る。」と諭すのだが、ようやくあの日の母の慈悲に満ちた瞳の意味を理解できたのかもしれない。
Ⅱ. 前作との比較
【I can save today You can save the world.】
前作『Wonder woman』(2017)でスティーブはハッキリとこうマニフェストする事で自分の全うすべき役割を悟り自らを犠牲にして空に散っていくことによってあの日とその後の世界を救ったものだが、今作でもサラッとこの言葉が聞かれる。といえばもうお分かりだろうがスティーブ・トレバーが蘇るのである。*2
前作は大ヒットしたのは自明なことなんだけど、個人的には前作を軽く超える大ヒットだった。前作で上がりまくったハードルをいとも簡単に軽く超えていく様は、ヘスティアの縄でジェット機目掛けそのまま上空遥か飛んでいく気高くも美しいダイアナ・プリンスの勇姿さながらだった。
そう、本作ではその優しくも強き視線を我々にも投げかけてくれるそんなラストシーンがとても印象に残った。この辺り「WW1984はアクションシーンが少ないのが地味だ。主演のガル・ガドットは非常に美しんだけど。」みたいな批判なんだかよくわからん意見が散見したがむしろアクションシーンが少ないことが素晴らしいんじゃないかとも思ったね。そういえば、改めて我らがワンダーウーマンことガル・ガドットの顔の造形の美しすぎる。確かにガル・ガドット様はギリシャ彫刻ばりのホリの深さはあるのだがクドさがないし、どこかアスリート的な爽やかさすら漂うのだ。
「爽やか・崇高・洗練・聡明」とガル・ガトットの魅力をサ行でまとめたりして...。
話は逸れたが、むしろその種の批判が出るたびにこれはもう「じゃあ最高なんじゃないか」と思った。というより先で述べた通りあのマックスが全世界に向かって「願い事を言え!!!!」と啓蒙する最後のシーンにあえて戦うのではなくむしろ哀れみの視線をむけ「あなたは何かの欲望を満たすには代償を払うことが必要なのよ。真実に向き合いなさい、そしてrenounce my wish(=願いを取り消す)」と静かに涙を浮かべながら諭すシーンなど鳥肌ものである。過去ダイアナの少女時代に、ヒッポリタ女王の言う通り真実のみを信じ続けたダイアナの姿を垣間見た瞬間だった。
でこれには広報側にも問題があって、映画予告編などのキャッチコピーの
【人類滅亡】とか
【体感型アクション】
といったキャッチコピー考えたライターは作品どころか予告編すら観てないんじゃ無いかレベルでほぼ「ウソ」を書いているぐらい的外れなのもあると思う。
あと10回目ぐらいだろうか、前日に一作目を再見して思ったのは既に今作の構想があったのではないかと思われるシーンが一作目ラストで今作のワンダーウーマンとして初め飛翔したシーンがあるのだが、よくよく考えたら一作目でのエンディングにて彼女はもう飛んでいるのだ。さらに一作目の主題歌にが『To be human』というタイトルは「人間力を越えたヒーロー像」をfeatureした一作目より寧ろ、人間・ダイアナに焦点が当てられた今作に符号するようにも思えるのだ。
Ⅲ. 「ヴィラン」のステイタス〜バーバラの場合
ここでは「ヴィラン(悪役)」論を述べたい。まず紹介したいのはこの演じるバーバラと言う女性。彼女は当初は、ヒールすら履いたことのないであろう冴えない勉強一筋のオタク系メガネ女子だったのだが、研究者として、スミソニアン博物館で仕事をする事になったワンダーウーマンことダイアナ・プリンスと知り合い→友人になるにつけ、彼女の洗練された美しさとか強さにある種の憧れを抱くようになるのだ。ちなみにこのバーバラのダイアナに対する「あなたは私の欲しいもの全部持ってる」的なある種の劣等感は同じくメガネ女子である『アルプススタンドのはしの方』における宮下恵の久住智香に対する気持ちと限りなく近いと思う。まぁその後、野獣に変身するか貧血で倒れるかの極端な違いはあるが...
まあそこまではいいいのだが、やがて触れつつ自分思いを唱えれば願いを叶えられると言うあの大理石を手にし、徐々に自分力が強くなっていくのがわかるのだ。帰宅中に「お姉ちゃん、俺と一杯やらねえか?ヘイ!!!」とか強引極まりなねえあの浮浪者のオヤジに襲われそうになったものの今やガンガン蹴り飛ばしているではないか!!私はダイアナよりも強い女よ!!!!!!あの女に勝ってみせるわ、そう思ったら最後、その後美しくも邪悪な野獣チーターなるヴィランへと変貌し、とうとうダイアナをも凌駕するパワーを身につけ、とうとうダイアナの行手を阻むが如き最強のライバルとなって立ちはだかってしまう。ダイアナはいう「あなたは間違っている。あなたはpersonable(人間味の深い)のが魅力だったじゃない。Renounce your wish!」*4
だが、彼女は反発する「NEVER!!!!!私のことを何も知らないくせに!!!私は誰にもなりたくない。この世界でno.1 のプレデターになりたい。」と宣言する場面がめちゃくちゃカッコよくてある種のカタルシスがあるぐらいなんだけど、考えようによっちゃあ彼女の気持ちも完全に理解できるのだ。自分と同じくらいの年齢の人がそりゃラテン語だろうが何語だろうが解読できるぐらい聡明で、豹柄のヒールもばっちりは着こなすくらいルックスも良くて、しかも痴漢に襲われそうになったのを護身術で蹴り飛ばすような強さも持っているのがいればそりゃ憧れどころか嫉妬すら抱きますよね、そして彼女を越えたいって思うのは当たり前だと思うのだ。我々誰しもが持っている他者への憧れ、そうそういう真理が具現化したのがこの作品におけるヴィラン、バーバラなのである。
そしてもう一人、本作の親玉的ヴィランがいる。彼の名前はマックス・ロード。彼はTVショーの司会者なんだけど、若い時に会社を立ち上げ、その後石油だとかもういろんな事業に手を出しては実際は借金まみれなんだけど離婚したてで時折遊びにくる息子、アリスタに「パパは世界一になる。」だとか宣告してる手前ボロが出まいと取り繕おうと必死な毎日を送っている。そんな彼も先のバーバラ同様に同じその例の自分の願いを叶えられる大理石を手にする事によって、自ら元々持っていたであろう権力欲と周りからの承認欲にまみれ、更なる願望を叶えようとするのだ。そう、「世界制覇」と言う願望を。でここまで述べてきて思ったのだが、バーバラもマックスも心から憎めなくない??って事である。それどころかバーバラにしたってマックスにしたってモチベーションになっているのは姿に少なからず共感を覚えるから。
前作ではその刃の矛先はいつしか本土で繰り広げられる醜き争い(戦争)を食い止めることに向けられる。だが、彼女が根絶すべき真の敵は大量殺戮ガスを撒き散らすボスを殺ることではなく【人間同士が憎み、殺し合う理由そのもの】であることに気づかされた。同様に、だからこそ今作最強の敵はマックスでもチーターでもなく我々自身の中にも潜んでいる邪悪な心なのかもしれない。
Ⅳ. 11回の鑑賞の果ての雑感
❶ダイアナとスティーブが乗った飛行機発車した時に見上げてる男がオスマン・サンコンにめちゃくちゃ瓜二つです。本当に似てるったら似てるので是非見てほしい(笑)。
❷MAXが秘書ラクエルを呼ぶ時のラテン発音で非常に歯切れが良い。
「ラクェイラッ!」な感じが潔くて良い。あとラクエルさんスタイル良すぎ。❸DianaがBarbaraを痴漢から救った後「偶然通りかかってluckyだった。」の抑揚を付けた「lucky」の抑揚がジェンキンス監督の言い方と類似していた。
妄想かもだが、そんなアドリブを取り入れるほどの信頼感があってこそ #WW84 という人間味溢れる大作が成立したのだと11回目にして実感。❹冒頭エアロビクスの女性を見る老人のエアロビクス女性のお尻をガン見するのめちゃビビる。
あと本作、同僚(男)が仕事で忙しそうにしてるバーバラに気を使って「Coffee, tea, me?」って言ってるのだが、あれ韻を踏んでるから何となくジョークとして成立してるのであって
「コーヒーにする?お茶にする?それともオレ?」って強引に和訳の字幕つけるのは無謀だと思います(笑)❺壮絶に気づいたが本作ラスト付近で見知らぬちっちゃい女の子がお兄ちゃんらしき男の子と雪合戦しててダイアナの背中にその雪玉が当たって「 Oh, Sorry....♡💦」とか言って可愛く謝るシーンがあるのだが、よくよく見たら思っ切りダイアナに狙い定めて投げているの少し笑った。
❻ガル・ガドットはじめ全てのキャストの素晴らしさは言わずもがなだが、少女時代のダイアナを演じたリリー・アスペルの一切スタントマンを使わず【若きダイアナ】を演じきっていたのが驚愕だった。ワイアーのみで様々なアクションを知力と体力と直感を武器に次々にこなす様は、彼女も三人目の wonderwoman である事を裏づけた。
そのリリー・アスペルと関連してこういう事があった。彼女があるYouTube番組に若きダイアナ役の撮影エピソードなどを披露するべく出たときに「WW84の貴重なエピソード聞いて嬉しかったよ。」的なリプライをした所、なんと返信をくださったのだ。更にその前ぐらいに11回劇場で見た趣旨のことを日本語でリプライした所なんといいねのリアクション。これって凄くないですか?全世界公開の WW84 のメインキャストがこうしてリアクションくれるって凄いよね。そもそも本作品がなぜ11回観ても飽きないのかという理由はこういう点にあって、紛れもなく国内外問わずエンタメを届けようという気合いと自信が感じられる作品だからだ。もうその強さが全てだとも思う。ここまで世界規模レベルの映画で、海を越えてのリアクション、てかこの子私今現在の100倍にあたる、1.2 万人ものフォロワーがいるんだよね(笑)✈️
もうこれだけでも『ワンダーウーマン1984』は最強の映画じゃないかと思わされる。
「付記」
思えば、今年2021年の一月に見た初夢は
10年以上ぶりぐらいに【空を飛ぶ】夢だった。
雲の上を、右手を前へ年末にビッグスクリーンで5回観た貴女のように浮上していた。
きっと貴女は私に飛翔する事で
世界を変えよと伝えてくれたのだ。
有難うダイアナ
有難うWonder Woman
そんな思いをこめて今更ながら2020年末にコロナ禍にして最初に立ち向かった唯一のヒーロー『Wonder Woman 1984』に敬意を評してこの 8114字を超えてしまったこのレビューを締めくくりたい。
— best of gal gadot (@gadotgifs) 2021年9月17日
Diana Prince is PERFECT in all versions ❤️✨
— DC ✯| (@dctvcinema_) 2021年9月17日
1918|1984|2016|2017. #WonderWoman pic.twitter.com/0JZbZ8zRoH